産学連携とオープンイノベーションで日本の科学技術を振興する
大学発ベンチャーを支える充実したサポート体制。産学連携共同研究、ビジネス創出における大学側の課題とは? ~ epiST Summit 2019 fall

2019年10月18日に開催した『epiST Summit ビジネス×アカデミアミーティング』。大学発ベンチャーをサポートする京都大学、山形大学、東京工業大学、筑波大学の皆さんにご登壇いただき、各大学の取り組みや、産学連携共同研究の課題などについてパネルディスカッションを行いました。

尾﨑典明(Ozaki Noriaki)

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事 筑波大学国際産学連携本部 准教授

大西晋嗣(Onishi Shinji)

京大オリジナル株式会社 取締役

小野寺忠司(Onodera Tadashi)

山形大学 教授、国際事業化研究センター長、有機材料システム事業創出センター長

武重竜男(Takeshige Tatsuo)

東京工業大学 研究産学連携本部 副本部長、知的財産部門長、ベンチャー育成部門長、特任教授

大学発ベンチャーや産学連携・共同研究を手厚く支援

ー 大学発ベンチャーを大学側から支援する4大学の皆様にご登壇いただき、パネルディスカッションを進めていきたいと思います。まず、各大学の取り組みを教えてください。

大西(京大オリジナル) 京大オリジナルは京都大学の100%子会社です。知財を扱う関西TLO、投資周りを担うKYOTO-iCAP、コンサルティングや研修・講習事業を行う京大オリジナルの3社で役割分担をしながら、産学連携に関する実務を担っています。京大オリジナルは「『京大の知』を発掘し、解放する」を理念に掲げ、大学の研究成果を社会実装するべく、学内のビジネスの発掘から、PR・事業化に至るまで幅広いサポートを行っています。

京都大学には3,000人以上の研究者がいますが、そのうち特許出願をしている研究者は200人以下、ベンチャービジネスに関わっている研究者は50人を下回ります。その中で京大オリジナルは、関西TLOもKYOTO-iCAPもカバーしていない、「今すぐ特許になる訳ではないけれど、今後どうなるかわからない」技術、いわゆるアーリーステージの手前の段階にある部分の発掘を行っています。このポジションでギャップファンドやインキュベーションファンドを使いながら案件の種まきを行うことで、産学連携全体のプラットフォームを作っています。

小野寺(山形大) 山形大学では、事業創出と人材育成の2本柱で産学連携に取り組んでおり、過去2年間で10社の大学発ベンチャーが設立されています。その中でテック系のベンチャーは大学の教員が設立しており、大学としては、大学の教員が持っているシーズに、経営の専門家をマッチングさせる等の支援を行っています。例として株式会社Yume Cloud Japanは、東北大学やAI関連企業と連携して感情表現エンジンの開発を開始しました。また、世界的に有名なクリエイターであるマンジョット・ベティ氏を招き、企業ブランド改革やロゴマーク等のデザインといったクリエイティブ戦略を扱う株式会社next is eastも設立しました。

人材育成については、『山形大学EDGE-NEXTプログラム』として起業家育成プログラムを提供しており、基礎編にはすでに115名が参加しました。早稲田大学、東京理科大学、滋賀医科大学や企業などと連携しながら、「自らイノベーションを起こし、地域創生を体現する人材」の育成を目指しています。その一環として、本プログラムから生まれたビジネスアイディアを磨き、社会実装を実現するための会社として、インキュベーションポートやまがた株式会社を設立しました。さらに大学に留まらず地域全体で起業家精神を醸成するべく、山形県内の高校生にもプログラムの授業内容を配信しているほか、山形県と連携して山形県の全ての中学・高校生を対象としたイノベーションキャンプを実施しました。こうした活動を通じて起業家教育の機会を拡大していきます。

武重(東工大) 東京工業大学の支出は、国からの交付金が減る中でも共同研究・受託研究の費用を中心に伸び続けており、今年度は9月時点ですでに昨年度の研究費を超えました。産学連携を積極的に推進することで、民間企業から獲得する研究費により大学の規模が拡大している状況です。このような産学連携を支える仕組みの1つとして、株式会社小松製作所、aiwell株式会社、AGC株式会社との協働研究拠点、企業の研究所を大学内に設置するような取り組みも行っています。さらに共同研究と両輪となる枠組みで、ベンチャー創出型の戦略的な研究も東京工業大学独自で進めています。この2つの取り組みで新たな技術シーズを創出し、大学で技術と知財のポートフォリオを設け、最終的にはTLOやM&A、IPOによって資金を自ら生み出していくのが、東京工業大学が目指す「新産業創出エコシステム」です。

これまでの大学発ベンチャーの発足数は累計105社に上ります。代表的な例として株式会社tsukurubaは8月にIPOを果たし、メディギア・インターナショナル株式会社は9月に新株予約権を東京工業大学に発行しました。大学発ベンチャーを育成する取り組みとして、学内では学生向け起業アイディアピッチコンテストの開催や、大学が資金提供して学生の自主的な運営によるコワーキングスペースの設置を行いました。また学外ではベンチャーキャピタルやNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)との連携など、産学連携の強化に取り組んでいます。

尾﨑(筑波大) 筑波大学では2014年に国際産学連携本部が発足し、学内の全ての学部・学科やセンター等の組織に横串をさす形で産学連携を支援しています。国からの交付金が減る一方で企業との連携を進めているため、共同研究費用は大型化しており、産学連携の共同研究を行う開発研究センターは外部資金のみで運営している状況です。共同研究の代表的な事例としては、トヨタ自動車などとともにSociety5.0を実現する次世代自動車交通基盤の構築に取り組んでいます。

筑波大学発ベンチャーの創出数は右肩上がりで推移しており、東京大学、京都大学に続き過去3年連続で三位です。筑波大学としては資金・場所の支援だけでなく、卒業生かつ起業家の方に協力してもらい学部生・大学院生に対して起業家養成講座を行うなど、若い後進の育成を行っています。また、産業技術総合研究所、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や理化学研究所などの国立の研究機関が多く集まる筑波の立地を活かして、学内だけでなく国立研究開発法人発ベンチャーの創出にも寄与するプログラムを提供し、そこでできたつながりも活かしながら技術系スタートアップを輩出するための取り組みを行っています。

筑波大学が支援した会社が、将来後輩を鍛えるためにリソースを割いてくれることを期待して、こうしたエコシステムを地域に広げていきたいと考えています。

大学発ベンチャー最大の課題は「経営者問題」

ー 大学発ベンチャーを支援する上で、各大学の皆さんはどのような苦労をされていますか?

武重(東工大) 大学は基本的に研究を本分としており、大学教員は研究をして成果をあげることを目的としています。そのため、特許の取得までは理解してもらえても、起業は「大学教員の本分と異なる」という話になりますし、一方で技術を持った大学教員が実際に経営をしたとしても、うまくいかないことがあります。

だからと言って研究者と経営者をマッチングしても、突然現れた経営者との間で簡単には信頼関係は構築できません。様々な活動を模索する中で、現在は外部のアクセラレーションプログラムを活用している状況です。

小野寺(山形大) 山形大学の場合は、経営者は全て外部から連れてきた人材です。武重(東工大)さんの仰る通り、大学の教員が経営をするというのはなかなか難しい問題です。経営の知識やセンスだけでなく、「リスクを負ってでも起業したい」というほどの意志を持った大学教員は決して多くありません。その中で大学発ベンチャー設立を後押しするため、大学として経営者人材のマッチングをしています。

尾﨑(筑波大) 話に出た通り、経営者問題は昔からの大きな課題です。私が課題だと思うのは、大学教員が代表権を持った経営者になれる大学となれない大学があることです。経営者になれる大学の場合はまずは経営してみることができる一方で、経営者になれない大学の場合は、経営者を連れてこないと事業が始まらない。しかし外部から経営者が来たからといって、大学の教員と合うかどうかは全くわからない。この課題解決のため、アクセラレータプログラムの中では、大企業に勤める人の中から次の経営者候補を育てるという取り組みをしている事例もあります。

ー 経営者問題を解決するために、東京のITスタートアップで経営チームを経験した若い経営者と、地方大学の研究者という組み合わせはあり得るでしょうか?

尾﨑(筑波大) ITの分野では、起業して成功した経営者が次の世代を担う若手に対して投資する動きがすでに盛んで、エコシステムができ上がっています。一方で大学発ベンチャーの場合に問題になるのは、いわゆる「ハードテック」や「ディープテック」といった領域です。まだこの分野で起業・経営をしてイグジットまで経験した人は少なく、IT業界のように次世代に還元される流れが一巡していません。技術に根ざした分野で、後輩となるスタートアップに投資・指導できる先輩経営者が現れないと、経営者問題の解決は非常に難しいと思います。例えばバイオの分野ではIPOだけでなくM&Aでイグジットとなるケースも多いため事例も多く、イグジット経験者が次のベンチャーを立ち上げるような動きが出てきているように思います。

事業化に向けた産学連携・共同研究の課題

ー 政府は産学連携・共同研究を推進していますが、大学ではどのような状況なのでしょうか? また、さらに進めるためにはどうしたら良いでしょうか?

尾﨑(筑波大) 筑波大学は大手企業・ベンチャー企業問わずうまく連携できていると思います。ベンチャー企業との連携については、落合陽一さんのピクシーダストテクノロジーズ株式会社を例にあげると、共同研究費を支出してもらっていることに加え筑波大学が会社の株式にストックオプションを設定しており、その対価として大学のリソースを提供しています。もし会社がイグジットすればストックオプションで利益を得られるため積極的に支援するという前向きな関係性ができており、好事例だと感じています。一方、大手企業との連携については、特別共同研究という方式も採用しています。特別共同研究を行う大手企業内の研究者のために准教授・教授といったポストを作り、大学内で研究してもらう制度ですが、スピード感を持って研究を進められるのがメリットです。このように、筑波大学としては産学連携がうまく進んでいる状況です。

小野寺(山形大) 山形大学は産学連携共同研究の受け入れ額の伸び率はトップクラスで産学連携の取り組みが進んでいますが、事業化にあたってはまだまだ問題があります。

1つはスピード感の問題です。企業側は1~2年程度で成果を出す必要がありますが、研究がそこに追いついていないのが現状です。もう1つは起業リスクの問題です。共同研究した内容で起業したいという研究者は、よほどの覚悟を決めた人に限られます。研究者には、「失敗したら戻ってこれないのではないか」というジレンマがあり、踏み出しにくい現状があります。これらの問題を解決するためには、まず、共同研究のうち比較的成果の出やすい「すぐにでも実装できる」という段階にある応用開発の研究について、より手厚い企業のサポートを受けながらスピード感を持って社会実装する仕組みを作り、企業に共同研究のメリットを実感してもらえるようにするべきです。次にスピードだけでなく、企業が資金を提供しやすくなる税の優遇措置などの仕組み作りが必要だと思います。単に共同研究するだけではなく、企業が産学連携の共同研究により前向きになれるような仕組みを作っていく必要があります。

大西(京大オリジナル) 大事なのは、共同研究の目的は共同研究費をもらうことではないということです。目的はあくまで事業化であって、そこを見失ってはいけないと思います。

武重(東工大) 産学連携共同研究の出口については、ずっと課題に思っているところです。東京工業大学では、「成果を事業化するまでを企業と一緒に考える」というスタンスでやっており、きちんと予算を使って外部人材を交えながら、共同研究後の事業計画作りもサポートする仕組みを設けています。この仕組みのメリットとして、大学の自由な雰囲気がプラスに働くと感じています。企業側の担当者から見ると、普段在籍している企業から一歩外に出て事業計画を考えた方が、新しい取り組みにつながるのではないかと思います。

尾﨑(筑波大) 事業計画を書ける人材は大学よりも企業にいるので、通常事業計画は企業側が出すもののはずです。ところが、共同研究の目的や研究成果を事業化するまでの道筋が曖昧になりがちな部分もあり、東京工業大学さんのような仕組みが必要になるのですね。

ー 様々な課題がある中でも、ベンチャー創出や産学連携に積極的な各大学の姿勢が伺えました。皆様、本日は貴重なお話ありがとうございました。

尾﨑典明(Ozaki Noriaki)

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ 副代表理事 筑波大学国際産学連携本部 准教授

大西晋嗣(Onishi Shinji)

京大オリジナル株式会社 取締役

小野寺忠司(Onodera Tadashi)

山形大学 教授、国際事業化研究センター長、有機材料システム事業創出センター長

武重竜男(Takeshige Tatsuo)

東京工業大学 研究産学連携本部 副本部長、知的財産部門長、ベンチャー育成部門長、特任教授