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「自分で作ったロボットで、深海に何があるのか見てみたかった」 筑波大学発ベンチャーFullDepthの伊藤昌平氏が開拓を目指す、水中という人類の新たな活動領域

株式会社FullDepthは、テクノロジーを通じて「もっと手軽」に「より安全」に海洋調査を行うことができるしくみを提供するべく設立された、筑波大学発のベンチャー企業です。人類未知の領域である深海調査だけでなく、ダムなどの水中インフラの調査なども手軽に、安全に行うことができる水中ドローンと関連するサービスを提供しています。本記事では創業の経緯や、水中ドローンを通じて実現したい事業の将来像についてお話を伺いました。

伊藤 昌平 (Shohei Ito)

株式会社FullDepth 代表取締役社長 CEO

実はよく知られていない「水中」を可視化する

― まず、FullDepthとはどのような会社かを教えてください。

伊藤 海洋調査や水中インフラの検査を行うための水中ドローン、小型で軽量な水中調査用のロボットと、それに連携したクラウドサービスを提供しています。

実は水中は、地球上で人類がうまく活用できていない領域の一つです。養殖など一部は利用されていますが、それでも水中で何が起こっているのか分かっていない状況で使われています。水中を調査する上で最も一般的な方法は、人間が直接潜って調べる方法です。しかし水中は透明度が低いと人間が調査するのには適さないだけでなく、毎年何名か亡くなってしまうような危険を伴います。また深海は、人間が直接潜って調査をすることはできないためより大型のロボットが用いられることになり、多額の費用をかけての大掛かりな調査となります。 これを解決するのが当社のFullDepth DiveUnit 300です。約28kgと小型・軽量化されており、それでも300mまで潜り、最大4時間稼働することができます。さらに連携するクラウドのサービスは、洋上の船で受信した動画をそのまま陸上に配信することもできるため、過酷な洋上に配置する人員を最小限にすることや、オフィスにいても深海の様子を確認できるというメリットがあります。収集したデータをクラウド経由で集約することにより、水中で起こっていることを効率的に可視化・利用可能な状態にするというのがサービスの特徴です。

― 直近のビジネス領域として注目している分野を教えてください。

伊藤 水産業での活用と水中インフラの調査という二つの分野がメインです。

水産業では、例えば養殖場で従業員と魚をつなげるインターフェースは水面の動きでしかなく、現在は水面の様子を見て、魚が元気か、魚はどれくらいいるのかを調べている状態です。また、海洋調査を行うため漁師さんの船に乗せてもらったことがありますが、水中から送られてきた映像を見た漁師さんが、水深40mの海の底を初めて見たと言っていました。漁具などから伝わる感覚からある程度の想像はしていたようですが、水中にはベテランの漁師さんですら見たこともない領域が広がっています。今後、水中の様子を直接見ることができれば、効率的に資源管理できるだけでなくICTを通じた省力化も期待されます。

インフラの老朽化については、トンネルの崩落事故などをきっかけに道路などのインフラ老朽化は大きな話題になりましたが、ダムなど水中インフラの調査は進んでいないのが実態です。ダムは水の透明度が低いため視界が悪く、潜水士が潜っても1m先も見えないような状況がよくありますが、水中ドローンに搭載する音響装置を用いれば100m先まで可視化し、状況を把握することができます。またダムのコンクリート壁のひび割れ調査では、染料を流してその水が吸われていくところを見る、という点検方法があるのですが、今までは潜水士が潜って目視で確認していました。ところが水中ドローンに染料を出す機械を搭載すれば、映像を同時に撮影できるので陸上から作業を完結でき、潜水士の作業を代替できるようになります。ダムは標高の高い場所にあることが多く、高所潜水による潜水病のリスクがあるため、単なる作業効率化以上の意義があります。 当社のFullDepth DiveUnit 300を使って調べてみると、お客様も知らなかった実態が次々と明らかになる事例がいくつも出てきていますので、今後も様々な使い方のご提案をしていきたいと考えています。

自分は何が一番やりたいのかを重視し、「夢」と捉えていた深海調査を本業に転換

― 次に、株式会社FullDepth創業の経緯を教えてください。

伊藤 子どものころから深海魚とロボットが好きで、ずっと興味を持っていました。そんな中で2008年にテレビで「ナガヅエエソ」という深海魚の映像を見たときに、『この深海魚を撮影しているようなロボットを作れば、自分でも深海魚を見ることができるのではないか?』と思ったのが最初のきっかけです。実はその「ナガヅエエソ」は会社のロゴにも使っています。その後、2009年にJAMSTEC(海洋研究開発機構)にてインターンをした際に、自動航行ロボットの研究者の方々に色々と教わりながら、自身のロボットの設計を温めてきました。

しかし当初は、自分の資金でロボットを作り深海に潜る、というあくまで個人的な目標であったため、事業化することは考えていませんでした。ただ、その目標を実現する資金を自分で貯めるために筑波でロボット受託開発の仕事を行っており、2014年に株式会社FullDepthの前身である株式会社空間知能化研究所を筑波大学の教授と一緒に設立しました。

その時期に事業をうまく進めていくためのヒントを探していたところ、筑波大学の筑波クリエイティブ・キャンプ(TCC)というプログラムがあり、LINE元社長の森川氏とご相談できる機会を得ました。そこではIoTデバイスやロボットの試作・開発など、受託開発系の話をメインに相談しましたが、森川氏にはどれもピンとこないということで、「結局、何が一番やりたいの?」という指摘を受けました。そこで本当は個人で深海調査ロボットを作りたいという話を持ち出すと、なぜそれを最初から事業化しないのかということで、当初の目的であった深海調査ロボットについて、事業化を真剣に検討し始めました。その後、それまでの受託開発をやめて事業を海洋調査ロボットに一本化することに決め、2016年3月にシードラウンドとして最初の資金調達を行って現在のFullDepthが本格稼働しました。 2016年の資金調達時には水中ドローンの試作機はなくアイデアだけでしたが、水中ドローンの設計は個人的にずっと温めていたことに加え、事前にニーズ調査を行って将来性に自信が持っていたこともあって、資金さえあればいつでも作れるという自信がありました。とりあえずやってみろということで資金提供していただき、そこから4か月で試作機が完成、水中に潜らせることができました。

― 筑波大学のお話がでましたが、起業に当たって筑波大学からの支援はありましたか。

伊藤 筑波大学に支援していただいたことはたくさんあります。 まず、珍しいケースかも知れませんが、共同創業者である会長の中内は、所属していた研究室の先生ではありません。筑波大学にはクラス担任という制度があり、そのクラス担任として出会ったのが最初です。現在は経営の相談役というだけでなく、教授であることから技術的なアドバイスもしてもらう関係にあります。これは筑波大学の支援というよりは、筑波大学に在籍していたことのメリットかも知れません。

また当初は、大学内にある無償のインキュベーションオフィスに入居していました。さらに大学の所在地に登記することができなかったのですが、インキュベーションオフィスに入居しているから登記させてほしいと要望を行ったところ、大学所在地で登記ができるようにルールを変えてくれました。さらにその後は、先ほどの無償のオフィスが駅から遠かったため、駅に近い場所に移りたいと要望すると、駅近にインキュベーション施設を新設してくれ、有償ではありましたが比較的安価に入居することができました。

事業内容をシフトするきっかけとなったTCCもそうですが、筑波大学からはたくさんの支援を受けており、非常に感謝しています。

「もっと手軽」に「より安全」に。個人で目指していた領域が価値あるマーケットだった

― FullDepthが提供されている水中ドローンの特徴を教えてください。

伊藤 水中は電波の減衰が大きく、水中との通信に無線LANもGPSも使用できません。操作のためには水中ドローンと洋上の船を光ファイバー(有線)で結ぶ必要があります。その水中ドローンと水上の調査機器を結ぶ光ファイバーケーブルの細さが特徴で、特許も取得しています。小型ロボットを使って一定以上の水深を調査しようとすると、ケーブルが潮流の影響を受け、ロボット本体が流されたり、浮き上がるなどの問題が起きます。これを軽減するために最も重要なのがケーブルの受ける抵抗を減らす細さであり、技術的特徴の一つです。

また小型でありながら搭載可能な機械が多く、簡便さと機能を両立させているというのも特徴です。水中ではGPS(電波)が使用できないため、音波を利用して水中ドローンの位置を把握するのですが、安価な小型の水中ドローンは音波装置を積む余力がなく、正確な現在地把握ができません。一方、大型の海洋調査ロボットは機器の搭載量も大きく機能が充実していますが、大掛かりで多額のコストがかかってしまいます。簡単に言えば、安価なホビー用ドローンと、1日あたり1,000万円もかかるような大型業務用調査ロボットしかない状態でした。FullDepth DiveUnit 300は、「業務用水中ドローン」という位置づけで音響装置も積めるような仕様とし、二つのマーケットの間を埋めるようなサービス提供をしています。小型化でありながら搭載量が多いため、従来より簡単に水中調査ができる一方で、姿勢制御できるだけのプロペラ出力を保ちつつ長時間稼働させることや、搭載できる機器の幅の広さといった機能面を両立できるのがFullDepth DiveUnit 300の強みです。

実はこれらは、もともと個人的な目標だった「自分の資金で自分でロボットを作り深海に潜る」ということを事業化するべくニーズ調査を行った結果、将来性に自信が持てた部分でもあります。個人でも手軽に、安全に、深海調査ができるようにすることが、結果として様々な課題解決に繋がっていました。

現在は水際までとなっている人類の活動領域を、“FullDepth”:深海にまで広げていきたい

― FullDepthの中長期的なビジョンを教えてください。

伊藤 一番大きな可能性が見込まれるのは資源開発分野だと考えています。今まで深海調査は多額の費用がかかっていたため、それを賄えるような企業でないと参入できませんでした。今後はFullDepthの水中ドローンにより低コストで簡単に深海調査が行えるようになるので、資源開発の裾野が大きく広がるのではないかと考えています。

さらにもっと長期的には、環境分野でも役に立てないかと考えています。海の環境汚染が注目されていますが、汚染だけでなく、生命活動の循環、例えば海の植物による酸素の生産や二酸化炭素の吸収など、海にはまだまだ仕組みが解明されてない部分がたくさんあります。FullDepthの水中ドローンにより「海のモニタリング」を実施することで、水中の実態把握が進み、長期・持続的に人類が地球で暮らしていくために役立つ知見が得られるのではないかと考えています。

― 深海魚を見たいというきっかけに始まり、環境問題の解決まで、領域が壮大ですね。

伊藤 実は個人的には、深さへの追及というか、深海への興味というモチベーションは変わっていません。海の中は、比率で言えばテニスコートに針を一本刺した程度の範囲しか調査されていないとも言われています。そのため、いわゆる深海でなくとも、我々が普段調査している間に人知れず「人類未踏の地」に達している瞬間がたくさんあるはずです。海洋調査を身近にすることで、そんな海の中の世界をもっと明らかにしたい、という気持ちが大きな原動力です。 こういった強い動機を持つことは非常に重要だと思います。ベンチャー企業を経営していれば、厳しい状況に直面する瞬間が必ずあります。その時、「どうしてもやりたい」「楽しい」「死ぬ前に絶対にやりとげたい」と思えれば、やってみる価値があるのだと考えています。もしそうでないのであれば、見つかるまで探すか、もしくは諦めるかした方がよいのではないでしょうか。私の場合、深海を自分のロボットで見てみたいという夢がモチベーションを保ってくれるので戦える、という部分は大きいと感じています。

水中には誰も見たこともない領域が広がっていて、現在の人類の活動とは隔絶された、未知の世界です。水の中を知り、使える領域に変えていくことで、今は水際で終わっている人類の活動領域を広げていきたいと考えています。目指すところは水深11,000m、海洋調査業界で一番深いところを示す用語で、社名でもある“Full Depth“を目指しています。

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伊藤 昌平 (Shohei Ito)

株式会社FullDepth 代表取締役社長 CEO

筑波大学第三学群工学システム学類卒。
2014年6月に空間知能化研究所を設立、代表取締役に就任。
2018年3月30日には同社社名を「株式会社FullDepth」(フルデプス)に変更し、日本初の水中ドローン専業メーカーとして事業を開始。
2018年に世界で初めて水中ドローンで深海1000m域への到達を達成。